以前ブログでもお話しした、お父様を祀るための仏壇を納めて参りました。
木工製作のプロ職人で、かつてはヨットの内装を担当していたK氏。
引退してから自宅の改造に取り掛かり、
アイデアにまかせてのユニークな部屋作りの途中で逝去されたとのことでした。
ご遺族は、数件の候補の中から「吉蔵」を選んでくださった、貴重なお客様です。
押し入れを仏間に改造するという要望のため、「吉蔵」の職人のNさんとK宅を尋ね、
奥様からご主人の逸話をいろいろと伺いました。
そして、その成果となる玄関、リビング、和室、トイレなどを拝見し、
木工デザインに対する旺盛な好奇心と、
それを実現する技術の高さにただただ感心し、驚くことばかりでした。
そんな、K氏の業績を目の当たりにした職人Nさん。
対抗意識を燃やしたのか、それから俄然、製作態度が変わっていきました。
お客様のプライベートなことなので、くわしくお話し出来ませんが、
例えば、「アーチ型の幕板」のデザインについて。
リビングにある、ご主人が製作した窓上巾2mほどのチーク材を使ったアーチ型の壁面。
そのデザインを、そのまま仏壇の幕板に利用してほしいとの依頼がお客様よりありました。
Nさんが考えたのは、チーク材の矢羽根の模様とその方向。
本尊の仏像の後背から、光が上方に拡散するようにチークの柾目を張り分けていく。
しかも矢羽根の間には、黒檀の細い筋まで入れる凝りようです。
さらに、Nさんが考えたオリジナル技術、扉が両サイドに納まる「引き込み戸」は必須。
仏壇の照明のスイッチを自在な位置に持ってくるための工夫も私には考えつかないほど。
最終的に出来上がったチークの仏壇は、繊細で緻密、上質な仕上がり感に溢れていました。
「主人なら、きっと自分の仏壇をこのように作ったでしょう。とても感激です。」
奥様の満足感あふれる言葉を聞いて、職人冥利に尽きるNさんの姿でした。
自分の思うままにモノを作ってしまう、まことに「職人は天才」である。
亡くなったK氏の残した遺産が、Nさんの製作意欲に火を付けた。
そうして、優れたモノはこの世に脈々とつながり、生み出されていくのだと思います。
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